配属された部署では、食べ物に意地汚い人が多く、居酒屋へ飲みに行くと、来た料理が
一瞬で消えてしまうような、生存競争がとても激しい部署だったことを覚えています。
当時新婚ホヤホヤの先輩社員Aさん(当時技師)は、奥さんが機嫌のいいときだけ弁当を作ってくれるそうで、
弁当を持ってくる日と持ってこない日があり、それはかなり不規則だったのです。
あるとき、弁当を持ってきたことを忘れて社員食堂で昼食を食べてしまい、
終業時間間際になって急に思い出して頭をかかえてしまいました。
「しまったー、ぼく、今日弁当を持ってきてたんだ。
このまま持って帰るとエライことになる。どないしよう。」
すると、Bチームリーダーが、
「なに?そうか、よし、俺がお前の女房の作る飯の味を評価してやろう。」
さらに、もう一人の先輩社員Cさんが、
「先輩、先輩、是非、私にまかせてください、きれいに食べますから。」
実験室の隅で、二人でAさんの弁当を、「ん、この玉子焼きはいける。」とか、
「この肉の焼き方はなるほど、Aの奥さんらしい」などと、評価しながら
頭をつきあわせてガツガツと食べていました。
いや、本当ですよ、うそじゃないですって。
こちらの製品を評価するために、東京から技術者が二人来られたことがありました。
こちらにとってみればお客さんなので、ホストのBチームリーダーとAさんとあわせて
計4人分、社内にあるゲスト用の
レストランを予約していたのです。ところが、先方に連絡をちゃんとしていなかった
ためか、昼食の時間になると、お客さんは、普段われわれが使っている社員食堂へ、
こちらの知らないうちに行ってしまったのです。
お客さんとはいっても関係会社の人間なので、勝手を知っていたのです。
実は、Bチームリーダーはこの機会に、1000円だったか、2000円だったか
忘れましたが、ゲスト用の食事を、タダで(会社の経費で)食ってやろう、
と昼食をセットしたわけなのです。
ですから、カンジンのお客さんがいなくなっては大変です。
慌てて、私とCさんのところに来て言いました。
「おい、C、パパーノ、今日はネクタイしてきているか?」
「・・はぁ。」
「はやく、スーツに着替えて来い。」
「・・・・・はぁ?」
「はやく!!」
もちろん、われわれ4人でゲスト用のレストランに向かい、Cさんと私が客人役です。
ガツガツガツガツ・・・。
「今日、モグモグ、東京を、モグモグ、何時ごろに出られたんですか?モグモグモグ。」
「7時くらいに出ました。モグモグ、新幹線で3時間ほどですから、ほんとに便利になりましたよね」
ガツガツガツガツ・・・。
「やっぱり東京も、モグモグ、もう寒くなりましたか?モグモグモグ。」
「はぁ。」
ガツガツガツガツ・・・。
と、白々しい会話をしながら、食事をしたのでした。面白かったけどね。
あのころは、今よりノンキだったのだろうか?
ミュンヘンの話のはずでした。当地はババリア地方というのですが、料理はその名もババリアン料理といって、
日本人が食べてもかなり美味しく食べることができます。ただ、味が濃い目で私にはちょっと
塩が多すぎる気がするのと、とにかく量が多い。一皿の値段は、日本よりも、むしろ高いくらい
なのですが、鶏肉の焼いたのを頼むと、骨付きのターキーや鶏など数本、それも大きいのが
プレートに山盛になってきます。マッシュルームの入ったクリームソースがたっぷり、それに
ジャガイモを丸く固めた、直径5cmほどもありそうなダンプリングなるものがついてきます。
サラダなんて頼むと、一人分でボウルにたっぷり来ます。
初日の晩のラーツケラーでは、ヴィナー・シュニッツェルを食べました。これは、正確にはババリアンではなく
その名の通りオーストリアはウイーンの料理です。ですが、ドイツではとてもポピュラー
な料理です。単なるカツレツ、といえないこともありません。昔、京都の寺町通り四条と三条の間に
古い洋食屋(注2)があって、ビフカツがそこの名物でした。なにしろ、大きい。薄く叩き延ばした牛肉を
カツにしたもので、「ワラジカツ」というアダナがついていたものです。そんなイメージでした。
一緒に食事したドクターP氏は、「この日本人は、変なものを頼むなぁ」とどうやら思うらしく、
しきりに首を振っていました。このときは他に白ソーセージ(ヴァイス・ヴルスト)を入れたスープ
も頼んだのですが、とっても美味。満足満足。
ただ、付け合せに付いてきた直径2cmほどの
ジャガイモのダンプリング十数個までは食べることはできませんでした。
ポークも良く食べるようで、ポークのステーキも食べました。これには、ホースラディッシュのおろした
のが添えられていて、これがワサビのようでとても美味しい。たっぷりつけて食べると、鼻にツンと
来ますが、味が濃くてどちらかといえば単調な料理の中でアクセントがきいて、
なかなかいけます。ちなみに、ホースラディッシュを調べてみたら、
なんと、粉末わさびの原料として使われているようですね。
Tara's Gardenのコンテンツから、「
たら 趣味の薬草専科」を開き、「ホースラディッシュ」を見てください。
それから、「マウルタッシェン」を食べたいと言ったら、結構うけたようで、彼らはちゃんとマウルタッシェン
を食べられる店を探してくれました。これも、ミュンヘンのスペシャリテ(名物)だ、ということですが、
大きめのギョウザかラビオリのような感じです。ちょっと厚めの皮でひき肉や野菜の刻んだものをまぜて包んだ
もので、たしか「タッシェン」が詰め込むといった意味だと聞きました。
半分に切ってコンソメスープに入れたもので、
いろいろな食べ方がある中でそれが一番トラディショナルな食べ方だ、と聞きました。
それから「レバーネーデルズッペ」というスープも食べました。これは、レバーのはいった団子が1個入った
コンソメスープです。団子を1個といってもやっぱり大きいのです。
また、ビールが来て、食事が来るまでの間、ブレッチェルという、
太いひも状のパンをハート型にねじったものを食べるのも、ミュンヘンのトラディショナルなスタイル
らしいのですが、おいしいのですけどね、これだけでもちょっとした量があるのです。そういえば、
(2)で書いた白ソーセージのスープはこのブレッチェルの小さくちぎったものも入っていました。
あー、美味しかったー。
駆け込み乗車をした人がいて、見ると手には食べかけのサンドイッチ、平気でムシャムシャやっています。
私も行儀が悪いほうなので、屋台やコンビニなんかでちょっとしたものを買って
歩きながら食べるのは好んでするほうなのですが、ミュンヘンでは、ほんとにそんな姿が目立ちました。
私はマリエン広場の裏側にあるヴィクトアーリエンマルクトというバラックの店ばかりが
並ぶ広場をブラブラしていたのですが、まずは、ブラット・ヴルスト(焼きソーセージ)。
このドイツ語はしっかり通じました。焼いたソーセージ
2本をコッペパンにはさんで売ってくれます。パンは熱いソーセージを食べるための手袋のようなものだ、
とどこかで東理夫が書いていましたが、いい表現ですよね。パンもソーセージもとても美味い。
次はニシンをコッペパンにはさんだのを食べます。それぞれ、2ユーロか3ユーロかそんなものでした。
そういえば、ソーセージの店というか肉屋かな、が何店もずらっと並んでいるのは壮観でしたし、
野菜もたくさん売っていました。野菜に関してはそれほど珍しいものはありませんでした。
何店か出ていたチーズの店でいくつか買って食べてみたかったのですが、なんだか買いそびれて
しまい少し心残りでした。その日は昼にピザも食べてみたのですが、これは
なんとなく予感がしていたのですが、美味しくなくてなんだかがっかり。むやみと大きいのを
半ばヤケで詰め込みました。
他には、美術館のあるテレジエン通りの小さな店で
泣く泣くテイクアウト(What's New参照)した
ダネルケバブも最高においしかった。
ドクターの食べっぷりは、というと、決してガツガツしているわけではなく、
話もしながら、でもいつの間にかちゃんときれいに平らげています。フォークとナイフだけ
を使って食べているのになぜか、ソースまできれいに
なくなっているのは不思議です。私は何べんも「ごめん、われわれ日本人の胃袋は
小さいのだ」と同じことを繰り返していました。体格の差かとも思うのですが、
比較的、線の細いドクターも別に苦にする風もなくきれいに食べていましたから、
そんなこともありません。多分、もう二皿か三皿食べても大丈夫なのでしょう。
彼らのオフィスはとても静かでした。静かでしたが、こなした仕事の量はたいしたもので、
高い集中力と熱いエネルギーを感じました。彼らの食べっぷりと共通するところがある
と言ってもいいかもしれません。
最近、ちょっとオツにかまえてしまい、昔あったハングリー精神が欠けている感のある
私ですが、彼らを見て刺激を受けて帰ってきました。
タフでエレガントな胃袋で、これからの時代を乗り切ろう。
ホテルの朝食はバイキングだったのですが、クロワッサンというにはあまりにでかいパンや、ライムギパン、 穀類がまぶしてあるコッペパンなど、食べ放題でした。なにしろ、パンはおいしい。最後の日にジャム(自家製 だと思う。)をつけたのですが、これがとても美味しくてもっと早くから試せばよかった、と少し後悔。なにしろ 明日にでも死ぬかもしれない(誰だってそうです)わが人生、残り3万回食べれるか5万回食べれるか、はたまた、 100万回食べれるかわかりませんが、食事は
一期一会で真剣勝負
です。ところで、百貨店ヘルティの地下の食料品売り場にはいくつかイートインの店があったのですが、なんと
回る寿司もありました。午後3時くらいだったのですが、ドイツ人が何人か
割り箸で食事をしていました。日本酒のビンをショーケースに並べた飲み屋もあったのですが、
十数回ほどの限られた食事の機会に日本食を食べるなんてもったいない。
好き嫌いなくなんでも食べましょう。
4コママンガ<ハムとラン> とキャラのページ (c)Shimamura,T |
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