パパーノなんなんでしょう

No.39
2004/ 4/18

Now all the criminals in their coats and their ties
Are free to drink martinis and watch the sun rise
While Rubin sits like Buddha in a ten-foot cell
An innocent man in a living hell.
(Bob Dylan, "Hurricane")

今回のなんなんでしょうは、
近江かね安
です。


夢を大切に

(1)この間

所属するチームで飲みに行ったとき、若手の同僚から、「マネージャの仕事と実務とどっちが 楽しいですか?」と真剣に訊かれました。技術者、あるいは研究者として入社したとき、 みなさん、どんな夢をもって入ったのでしょうか?大学での研究内容を続けるつもり、あるいは、 漠然と、新しい新発明を自分のアイディアでコツコツと仕上げてやりとげる、 と思っていた人もいるかもしれません。 プロジェクトXを見て、ドラマチックな未来を夢見て入社した人もいるかもしれません。 いい大学は出ているし、その中でも優秀な成績だったので、選ばれてこの会社に 入社できたわけだし、きっと本社のピカピカの研究所に配属されるだろうし、 寮とか社内貯蓄制度などの福利厚生もいいし、そんなにきつい仕事をしなくても、 給料はよさそうだし、AYUにも会えるかもしれないし、と思った人もいるかもしれません。
フレックスなので朝はゆっくり出社して、コーヒーでも飲みながら論文のチェック、 学会で知り合った他社や大学の研究員からのメールに返事をし、 昼からは、尊敬できる先輩、あるいはクリエイティヴな同僚とのディスカッション、 昼の3時すぎから最新の実験設備で実験をして、残業時間を少々使って一日のまとめを行い、 帰宅すれば、社内で知り合った理解あるきれいな奥さん (あるいは、ダンディな旦那さん) が夕食を作って待っていて、 ちょっと花でも買って帰れば楽しく一日のできごとをおしゃべりしながら食事をし、 寝る前に私用のメールをチェックして、とりあえず、簡単にリプライをしておき、 夜12時すぎにはふかふかのダブルベッドで横になり、ゆっくり休んで明日に備える。
99.9999%ありえませんね。

(2)そう言ってしまうと

みもふたも無いのですが、 おとーさんはいったい会社でどんな仕事をしているのか、 家内にも子供にも説明はとても難しい。少なくとも、TVドラマでやっている大企業の サラリーマンのように、きれいなオフィスで仕事をし、アフターファイブは お洒落なレストランでデートなんてイメージとはまったく異なっています。
仕事のイメージも違えば、評価されるポイントも怒られるポイントも まったくずれています。
もう少しドメスティックなドラマ「サザエさん」だって、マスオさんもお父さんも、 仕事は楽そうだし、開発戦略のグランドデザインなんて考えなくても よさそうだし、家からも近そうだし、早く帰れるみたいだし、 駅でばったり会えば家へ帰る途中のおでん屋か 一杯飲み屋でちょっとひっかけて帰れるようだし、 そんなときに懐ぐあいを気にしなくてよいところをみると かなり給料はよさそうだし、家は平屋で部屋数が多いうえに一部屋一部屋とっても広いし、 庭も玄関もやたらと広いし、 あんな間違ったサラリーマン家庭のイメージを広めてもらったら困りますね。
なんで、東○は電機メーカーでありながらあんな現実とかけはなれたライフスタイルを スポンサーとして許しているのか知りたいものです。
もっとも、そういえば、私の高校の同級生の間では、サザエさんは
「スーパーエキセントリックSFアニメ」
と位置づけられていましたっけ。

(3)なんてことをツラツラ考えていると

ついこの間まで、つきあいのあった、とあるメーカー (注1)の営業の方から電話がありました。 ご自身の夢のために今の会社を退職するとのことです。 以前は外資系の半導体メーカの営業をされていたのですが、素晴らしい成績 だったらしいです。数年前にその会社を退職して、 ご自身の窯を作って、一度、陶芸の道に入ったのです。 関東の田舎のほうに、土地も家も買って、畑で野菜なんかも作っていたそうで(自給自足も可能!)、 そのときの写真を見せていただいたことがあるのですが、 とても幸せそうでした。でも、平成不景気の真っ只中でうまくいかなかったので、 今勤めておられる会社に再就職したとのことです。 会社勤めの合間、休みの日には陶芸教室をしたり、作品を作って焼いたりしていた ということです。
ですから、また夢に向かって再挑戦、といったところでしょうか。
ガツガツした感じは微塵もない、飄々として誠実なカッコいい方です。 夢を追い続けることもできるのだなぁ、と 勇気づけられました。
その人がいつか言っていたように思うのですが、
「人生、仕事ばっかりじゃないですから。好きなことをどんどんやっていく人生も 悪くないんじゃないかなぁ、って思っているんです。」
そうですよね、人生いろいろ、あんまり短期的に考えなくてもいいんですよ、きっと。
七転び八起き、1歩進んで2歩さがる3歩さがって右へ行く、2度あることは3度ある、 幸せは歩いてこない、だから歩いていくんだね。

(4)話はまったく変わりますが

この間、京阪特急の中でパソコンを広げたら、「重さはどれくらいですか?」と 隣の方が声をかけて来ました。パソコンの話、ホームページの話と、少し会話がはずんだのですが、 ご自身で商売をされているということなので、どんな仕事をされているのかお伺いしたところ、 滋賀のほうで精肉屋さんをされている ということで、名刺をいただきました。近江かね安、という お店です。肩書きは「丁稚」と書いてあるのがビックリしたのですが、 社長さんです。店頭で解体して販売されているということで、 このホームページを見ると、そのことに関するポリシーも書かれています。
このような良心的な店があると少し嬉しい気がします。
でも私のような貧乏サラリーマンにはちょっと無理ですねぇ。
私は都会育ちなので、肉などはショーケースに並んだ高級な肉か、 薄切り肉のパックされたものしか知りません。 鶏にしろ、牛にしろ豚にしろ、自分が口にしているものについて、 どのように生産されて、そしてどのような過程で目の前に現れているのか わかりません。現代はそういったことをどんどん舞台裏へ隠していく時代です。 消費された後にゴミについても同じです。どれだけの人が、 自分が捨てたゴミが目の前から消えてからどこへ行って、どのように 処理されているのか、自覚していることでしょう。
そんななかで、BSEや、鳥インフルエンザなどの問題が 起こり、この状況が続けば今後もきっと似たような状況が続くのでしょう。
卵を生めない雄のニワトリのヒヨコが、どんな運命にあるか知っていますか?
私たちも 自覚的消費者として、変わらなければなりません。

(5)そんなこんなで、

1月からずっとMax DePreeの"Leadership is an art"という本を読んでいます。行間が広く、文字が大きいし、 150ページほどなのですぐに読み終わるかと思ったら、文章が口語調でとても読みにくく全然 進みませんでした。 今日(2004/4/18)やっと読み終わりました。一日平均1ページちょっとくらいですから、ほんとに、カタツムリ のように遅いですね。でも、内容は素晴らしかったです。著者の Max DePreeはHerman Millerという会社のChairmanでCEOです。ハウツー本ではなく、 リーダーシップはどうあるべきか、メンバーも含めて、企業の一員として社会の一員として、さらに 夢をもった個人として、意味に満ち溢れた豊かな人生を送るためには、 リーダーとしてどうあるべきなのか、DePree氏の考えが例を交えて書いてあります。 このコラムにふさわしい内容の素晴らしいこの一節を引用しましょう。

Do grown men weep? Sure. Should grown men weep? Of cource. Anyone in touch with reality in this world knows there are lots of reasons to weep.

英語がとっても苦手な人もいることでしょうから、注2として訳を書いておきます。
他にもたくさん、印象に残る言葉や、文章があるのですが、たとえば、

The first responsibility of a leader is to define reality. The last is to say thank you.
とか(注3)、

Leaders don't inflict pain; they bear pain.
とか(注4)、

本当に素晴らしい言葉がたくさん書いてあります。
そのうち、抜書き集を作ってアップしようと思っています。
実行が大事、頑張るよ。


多くの人は漠然と「自分の本当にやりたいこと」をしたい、と思っているのではないでしょうか。 夢と現実のギャップは必ずあるし、しばしばとても大きいのですが、 それを埋めるのは自分です。
さて、最初の質問の答えですが。その時々で、私が私でしかできないことをするのであれば、 実務も雑用もありません。どちらでも受けて立つってこれで答えになっているかな。どんな仕事でも、クリエイティブにするかしないかは自分しだいだと思います。な〜んて、

家では言われたことしかしないくせに

しかも、満足にもできないんだ、ぐっすし。
さて、来週(21日出国、25日帰国)は、再び、ドイツはミュンヘンに出張です。
次のパパーノは「ミュンヘン再訪」がテーマの予定です。あくまで予定ですが、お楽しみに。
え?もちろん、仕事ですよ、仕事、ビールを飲みに行くわけではありませんよ。


4コママンガ<ハムとラン> とキャラのページ
(c)Shimamura,T
トップページ  パパーノ Index  メール  hardy@max.hi-ho.ne.jp

注1)この会社も

夢をもった技術者集団の素晴らしい会社です。数年前に一緒に仕事をさせていただいたのですが、 本当に素晴らしい体験でした。
その時は、他にも夢をもって創業されたばっかりのベンチャー企業様、数社とつきあわせて いただいたのですが、私の大きな糧にはなったものの、大きなビジネスには結びつかなかったので、 その点では申し訳なく思っています。あの時は本当にありがとうございました。

注2)少し恥ずかしいけど、訳はこんなもんでしょう。

一人前の男でも泣くことがあるかな?−もちろん。一人前の男は泣かなければならないかな? −当然さ。この世界の現実に触れて生きている人であるならば誰でも、泣かなければならない理由が たくさんあることを知っているものだ。

注3)これはこんな感じかな

リーダーが、まずやるべきことは、現実を定義すること、そして、最後にするべきことは、ありがとう、と言うことだ。

注4)なかなかできませんよね。

リーダーは(部下に)苦痛を与えはしない、リーダーが苦痛に耐えるのだ